- 2020年12月にフィンランド政府組織のBusiness Finland から430万ユーロ(約5.3億円)の資金調達
- 空気から絞った水、二酸化炭素、ミネラルを微生物に与えて代替たんぱく質をつくる
- 作られた空気たんぱく質「ソレイン」は、必須アミノ酸をすべて含む高栄養価プロテインパウダー
代替タンパク質の原料は空気、電気、微生物
「空気から食べ物を作る」…仙人ですか?というツッコミを入れたくなるアイディアを実現しているスタートアップ企業Solar Foods(ソーラーフーズ)。
フィンランドのヘルシンキを拠点にするSolar Foodsは、空気、電気、微生物を使い代替タンパク質を作る技術を開発。
「ガス発酵」と呼ばれる技術で、作りだされる空気タンパク質は「ソレイン(Solein)」と呼ばれる。
この代替タンパク質の特徴は、必須アミノ酸をすべて含み、従来の食べ物のように天候、土地、水に左右されることなく生産できます。
2020年9月にシリーズAの資金調達で1850万ユーロ(約23億円)の資金を集め、フィンランドの業界最大の食品グループFazer Groupは、Solar Foodsに1500万ユーロを投資。
「空気タンパク質(Air protein)」という話題が注目を集めます。
続く2020年12月、Solar Foodsのプレス発表によると、Business Finlandから430万ユーロ(約5.3億円)の資金を受け取ります。
※Business Finlandはフィンランドが国の研究と技術開発を推進する政府が所有する機関
https://www.businessfinland.fi/en/for-finnish-customers/about-us/funding-information
地球どころか宇宙空間でも、食料調達の可能性を持つ技術で、Solar Foodsは2022年ごろにソレインを材料にした食品製造施設をオープンさせるために動いています。
60年前にも考えられていたアイディア
「空気から食べ物をつくる」というアイディアを、最初に考えたのはおそらくNASAになるでしょう。
1960年70年代に、アメリカとソ連(ソビエト連邦)の宇宙開発競争のなかで、宇宙飛行士の食料の調達方法が課題になります。
NASAの研究者たちは、スペースに限りのある宇宙船のなかで食料を自給する方法を考案。
それが微生物に二酸化炭素を食べさせ、炭素を定着。微生物が作りだしたタンパク質を宇宙飛行士の食べ物にするというものです。
このNASAの考えたアイディアで、空気からたんぱく質を作っているのがアメリカのスタートアップ企業Air Protein。
このスタートアップ企業もSolar Foodsと同じ分野で代替たんぱく質を開発、研究しています。
「空気からたんぱく質を作る」技術が普及すると、実際に宇宙で使われる時代がくるかもしれません。
場所も環境も問わない
2017年12月、Solar Foods(ソーラーフーズ)は、Juha-Pekka Pitkänen(ヨハ・ペッカ・ピッカネン)とPasi Vainikka(パシ・ヴァイニッカ)の2人の創設者よって設立されます。
Solar Foodsの空気からたんぱく質を作る技術は、フィンランドのVTT技術研究センターとフィンランドのLUT大学の研究から生まれました。
具体的な細菌名は公開されていませんが、遺伝子操作した微生物を使って空気タンパク質を生産しているとメディア「The Spoon」は述べています。
またBBCニュースの記事では、微生物に関して「土壌バクテリア」という記述があるため、Solar Foodsが空気タンパク質の生産に使用している微生物は、「土壌に含まれるバクテリアを遺伝子操作したもの」である可能性が高いといえます。
2019年の段階で、空気タンパク質「ソレイン(Solein)」は食品として承認がされておらず、その扱いも遺伝子組み換え(GMO)食品になると予測されていました。
そのため、EUの規制当局から承認を得るために2年ほどの時間が必要になると予想されています。
空気タンパク質「ソレイン(Solein)」
空気タンパク質「ソレイン(Solein)」を作るには、自社サイトの説明を引用すると、「空気から水を絞りだし、CO2の泡と窒素、カルシウム、リン、カリウムなどの栄養素を微生物に供給」。
それらの栄養は、植物の根が土から吸収するものであると説明しています。
微生物は、与えられたものをエサにして、成長し、増殖。それを乾燥させてソレインは出来上がります。
この工程は自然発酵に基づいており、ビールやワインを作る方法と同じであると自社サイトで説明。
できあがったソレインの粉末は、65%がタンパク質、必須アミノ酸を全て含み、栄養豊富な代替タンパク質です。
加えて、含まれる栄養素は、乾燥大豆や藻類の組成と非常によく似ていると自社サイトで説明。
味はとてもニュートラル(つまり無味に近い)で、あらゆる製品の材料になる可能性があり、Solar Foods(ソーラーフーズ)は、今までにソレインベースの食品を20種類以上開発したとメディアにコメントをしています。
掛かるコストの少なさ
Solar Foodsの空気タンパク質の特徴は、栄養価も優れていますが、その生産に必要な資源が非常に少なく済むことです。
同じ量をつくるのに大豆より数倍効率的とされ、必要な水も1/10で済むとされています。
加えて、農作業で使用される農薬や肥料を一切必要としません。
特にCO2の排出削減の比較対象なっているのは、多くのフードテック企業が比べる畜産業だけでなく、植物ベースのタンパク質も含まれています。
メディア「Climate Fund」によると、ソレインによってCO2排出削減できる可能性は、食肉と比較すると99%削減でき、植物ベースのタンパク質と比較すると80%削減できると発表。
生産の仕組みが外界とは独立していることからSolar Foodsは、ソレイン生産は砂漠、北極圏、宇宙という過酷な環境下でも可能であるとしています。
代替タンパク質の価格
「空気と電気、微生物でたんぱく質を作る」と言われると、信じがたいことですが、実際に製品化に向けて資金が集まり、生産に向けた計画が動いています。
Solar Foodsのように、微生物に必要な栄養を与え、たんぱく質をつくる技術。微生物と発酵をコントロールする技術は「精密発酵」と呼ばれます。
シンクタンクRethink Xは精密発酵から生産されるたんぱく質は、2035年までには動物タンパク質より約10倍安価になると提唱。
あと10年もしたら、たんぱく質を作る主原料として、空気が利用される時代が当たり前になりそうです。
参 考
企業HP
メディア情報
メディア「Food Bev」
メディア「Food Ingredients First」
メディア「Solar Foodsの自社ブログ」
メディア「BBCニュース」
https://www.bbc.com/news/science-environment-51019798
メディア「The Spoon」
https://thespoon.tech/solar-foods-raises-an-additional-e15m-closes-series-a-round/
資金の流れ
https://www.crunchbase.com/organization/solar-foods-oy/signals_and_news