植物ベース代替卵(プラントベースエッグ)とは
鶏卵の代わりとして、卵料理に使用して凝固するたんぱく質で作られており、卵アレルギーを持つ人やビーガンの人向けの料理で使われることが多い代用卵です。
呼び名はいくつもあり、「ビーガンエッグ」「プラントエッグ」「プラントベースエッグ」「植物ベース代替卵」などなど企業によっても違います。
とはいえ、製品の主原料はマメ科のタンパク質(大豆、エンドウ豆、ひよこ豆、緑豆)が多いです。
こちら記事では、まだ製品化、公開されていない細菌発酵で開発を進んでいる代替卵についても海外メディアから情報を集めて、紹介しています(2021年3月11日現在)
植物ベースの代替卵は、植物肉(プラントベースミート)ほど開発、製造している企業は多くありません。
その理由は鶏卵の持つ複数の機能を1つの製品で再現するのが困難ということです。
卵機能一覧:
- 乳化(水と油に同時に結合させ、分離するのを防ぐ ex:マヨネーズ)
- 凝固(熱、酸、アルコールなどの刺激で卵は液体から半固体、固体状態に変化)
- ゲル化(食品用ゲルは粘弾性があり、カスタードなど特定の食品に特有のテクスチャーを作成)
- 増粘(プリンやソースなどの製品の増粘剤として機能する)
- バインディング(凝固とゲル化による影響による”つなぎ”としての役割)
- 保湿(水分保持は、劣化を遅らせ、貯蔵寿命を延ばすためにベーカリー製品で使用)
- 泡の安定化(卵白タンパク質のオバルブミンとオボムチンは、泡を安定させ、メレンゲやヌガーで重要な役割をします)
- 結晶化制御(トリュフ、ヌガー、フォンダンなどの製品含まれる砂糖の結晶化を遅らせ、防止する干渉剤)
- 抗菌(特定の卵白タンパク質には抗菌特性があり、酵素としてチーズ、ワイン製造に有用)
しかし、持続可能性(サステナビリティ)に注目が集まり、環境負荷の少ない製品、食品が消費者に求められるようになりました。
同時に鶏卵の代わりとなる製品を開発しているスタートアップ企業も、それぞれの特徴のある製品を開発、販売を始めています。
企業によって数値は異なりますが、今までのように鶏を育て、卵を産ませる方法より、代替卵を生産するほうが、格段に資源・エネルギー・水・土地を使わず済みます。
具体的な参考数値として…水の消費:約90%以上削減、CO2:約90%削減、土地利用:80%以上少なくできるというものです。
まとめて紹介するのは、代替卵を開発しているスタートアップ企業(もしくはベンチャー)で、特に先駆者的なポジションにある企業7社。商品化している企業については商品特性も説明しています。
代替卵のスタートアップ企業
Plant Heads イギリス
イギリスのハートフォードシャーに拠点を置くスタートアップ企業PlantHeadsが展開するプラントベース代替卵ブランド「Crackd(クラックドュ)」。
2020年12月からPlantHeadsは、イギリス初のプラントベース代替卵「No-EggEgg」を発売開始。
イギリス大手の食料品店M&Sとオンライン専門の小売り専門The Vegas Kindと提携し、大手の流通網から「No-EggEgg」イギリス全土に展開しています。
No-EggEgg(ノーエッグエッグ)
No-EggEggの主原料はコールドプレスされたエンドウ豆タンパク、栄養酵母、黒海塩など、欧州食品安全機関が承認した植物素材のみを原料にして製造。
「イギリスで最初の液体植物ベースの代替卵」というポジションを手に入れたNo-EggEggは、非常に洗練された代替卵となっています。
それはオムレツなど一般的な卵料理以外に「ベーキング」ができるという点です。
他社が発売している植物ベース代替卵には、オムレツやスクランブルエッグを作ることはできても、それ以外の卵料理ができないという製品が一般的です。
それはメレンゲを作り「素材を膨らませるため泡の安定化」の特性を持っていないためです。そのため、スポンジケージ、シフォンケーキといった焼き菓子料理が作れません。
これは主原料の植物たんぱく質の構造が、鶏卵の動物たんぱく質と異なることで起こる特性の違いです。
ですが、このNo-EggEggではベーキングはもちろん。それ以外にもクッキー、ブラウニー、パンケーキ、スポンジーケーキも作ることが可能なプラントベースの代替卵です。
出典:https://www.crackd.com/
内容量 | 490g(ボトル1本あたり) |
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単 価 | 3.99ポンド(約540円) |
Float Foods シンガポール
2020年6月設立のシンガポールのスタートアップ企業Float Foods(フロートフーズ)は、アジア初のプラントベース代替卵を開発、製品化したフードテック企業。
コロナ大流行が設立のきっかけとなったと、女性起業家である創設者Vinita Choolani(ビニタ・チャローニ)はメディアに語っています。
マメ科の植物たんぱく質を原料に、特徴的な代替卵の商業的な製品化に成功。2022年までに製品の販売化を計画しています。
OnlyEg(オンリーエッグ)
従来の代替卵とは大きく違うのは、製品「OnlyEg」には“白身”と“黄身”が分かれており、見た目はまるで“鶏卵”という代替卵で初めて「目玉焼き」が作れる製品です。
一般販売がされていないため、細かな製品の機能性やどれくらいの卵料理まで作れるようになっているかなどは公表されていません。
2021年の3月末までにシードラウンドの資金調達を終える予定をしており、次の発表が期待されているスタートアップになります。
ZeroEgg イスラエル
イスラエルのスタートアップ企業。こちらの企業は主に企業向け(B2B)で代替卵を開発、販売している。
パン屋、ホテル、飲食店や食品製造企業がメインの取引先。
2020年10月にアメリカ市場に参入、11月に約5億円の資金調達に成功。
2021年中に消費者向けの新商品を開発、発売する計画。
2020年11月で扱っている製品は2種類:EGG BasicsとBAKE Basics。
ZeroEgg社もサステナビリティ(持続可能性)を強く意識した商品づくりをしており、鶏卵の代わりに代替卵の使うと…
- 温室効果ガス 59%削減
- 水とエネルギー 93%節約
- 使用する土地 92%節約
という資源、エネルギー節約・削減になるとHPで掲載。
EGG Basics(エッグベーシクス)
大豆タンパク質分離物とエンドウ豆粉を主成分にした粉末状の代替卵。
粉末状のため、水と油に混ぜて2分ほどかき混ぜ、あとは溶き卵と同じように塩や調味料を入れて味の調整。
フライパンで炒めると、スクランブルエッグやオムレツを作ることができる。
主原料:大豆たんぱく質分離物、エンドウ豆粉、セルロース繊維、乾燥酵母、ジェランガム、変性セルロース、ひよこ豆プロテインパウダー…
一部抜粋:https://static1.squarespace.com/static/5ef3db19071b253a0cdad63a/t/5f1f1a27173b882549f2f2c0/1595873833633/ZeroEgg-EGG-Basics.pdf
BAKE Basics(ベイクベーシクス)
こちらの商品はカテゴリーとしては代替卵に入るものですが、BAKE Basicsではオムレツやスクランブルエッグは作れません。
BAKE Basicsは卵を使う料理(ケーキ、マフィン、ブラウニー)に卵の代わりとして入れるものです。
ZeroEgg社は「素材を膨らませる膨張性」が求められる料理には、それ専用に商品を分けて開発しました。それがBAKE Basicsです。
主原料:大豆たんぱく質分離物、エンドウ豆粉、寒天、粉末セルロース、乾燥酵母…
一部抜粋:https://static1.squarespace.com/static/5ef3db19071b253a0cdad63a/t/5f1f1a166dd88f02eacef5fb/1595873816861/ZeroEgg-BAKE-Basics.pdf
詳しく商品ついて調べたい方はこちらでカタログがダウンロードできます。
JUST アメリカ
サンフランシスコから始まったスタートアップ企業。以前は植物たんぱく質を利用したマヨネーズ「MAYO(マヨ)」販売。
植物たんぱく質をベースにした代替食品の開発ノウハウを多く持つ企業。
このJUST社に注目が集めっている理由は「JUST Egg」のクオリティの高さ。
多くの企業が鶏卵でない代替卵を開発してきましたが、味や栄養面などが外食産業で評価されませんでした。
しかし、「JUST Egg」がサンフランシスコのレストランで扱われるようになって、代替卵としてブランドイメージが確立。
JUST社は植物ベース代替卵のパイオニア的な存在になります。
JUST Egg
主原料は緑豆をベースにした植物性タンパク質(※緑豆はもやしの種となる豆)。
リキッドタイプで、そのままフライパンで炒めてスクランブルエッグやオムレツ、砂糖とだし汁と混ぜてだし巻きとかなり卵を使った料理が作れます。
HPでレシピが公開されていますが、クッキーは作れても素材の膨張性が必要となるケーキはできないようです。
https://www.ju.st/en-us/recipes
主原料:
水、緑豆タンパク質分離物、エキスペラープレスカノーラオイル、コーンスターチ、ベーキングパウダー…
一部抜粋:https://www.amazon.com/Just-Patty-Plant-Based-Ounce/dp/B084NDFDQX/ref=sr_1_4?almBrandId=VUZHIFdob2xlIEZvb2Rz&dchild=1&fpw=alm&keywords=just+egg&qid=1587408412&refresh=1&s=wholefoods&sr=1-4
内容量 | 227g |
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価 格 | 4.99ドル(約550円) |
EvoFoods インド
2019年にムンバイを拠点に設立。インド初の植物ベースの代替卵のスタートアップ企業。
レンズ豆の植物たんぱく質を利用して、植物ベースの液体代替卵(リキッドプラントエッグ)開発。
コレステロール、抗生物質を含まず、今までの鶏卵より持続可能性のある代替食を生産する。
特徴的なのは今までのオーガニック製品と同等のコストで植物ベースの代替卵を開発するという「先にコスト計算」を考えた製品づくりをしているところです。
インドは作物の多様性、収穫量が非常に多いため、代替卵に適した高たんぱく質の素材を安価に調達し、高品質の製品を生産することを目指している。
2020年にはECサイトから消費者向けとインド全体のレストランにインド初の液体代替卵(リキッドプラントエッグ)を発売すると計画しています。
まだ、商品名は未公表ですが、インドの代替卵マーケットで地位を築いたら、アメリカ市場に参入すると大変勢いのある企業です。
Les Merveilloeufs フランス
https://lesmerveilloeufs.fr/index.php/home/
2人の女性生物学者(SherylineThavisouk と PhilippineSoulères)が共同創設者となって始めたLes Merveilloeufs。
まだ企業としての規模はないようですが、植物ベースの代替卵の研究、開発を行っている。
こちらの取り組みは他の植物ベースの代替卵と違うユニークな違いがある。
鶏卵と同じように代替卵に黄身(きみ)と白身が存在する。
50以上のテストレシピを経て、開発が進んでおり、商品化の最終段階に近づいている。
正確な原材料は非公開となっているため不明だが、マメ科の植物がベースとなっている。
ヴィーガンや卵アレルギーの人に、「目玉焼きを料理する選択肢を作りたい」ということで、消費者に直接販売する予定。
フランス国内市場だけでなく、国際的な市場にも十分なニーズがあると分析している。
2020年末までにヴィーガンレストランで披露する予定。
Oggs イギリス
2018年に設立のスタートアップ企業。
こちらの企業は世界初の特許取得済みの液体ヴィーガン代替卵として、2020年7月にイギリスのスーパーマーケットで発売を開始
ひよこ豆の料理のする時に出る煮汁(アクアファバと呼ばれる)が製品の主成分。別名「ひよこ豆水」。これは卵白のメレンゲと同じような役割あり、泡だて器で泡立てるとメレンゲのようになる。
Oggs Aquafaba(オッグス アクアファバ)
この代用卵もオムレツを作るのではなく、ケーキなどベーキングが必要な料理に使う専門の製品となっています。卵白の代わりに入れて素材を膨らせることができます。
内容量 | 200ml |
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値 段 | 1.95ポンド(約280円) |
卵の代わりを求められる代替卵の厳しさ
代替卵の認知も、市場規模も、代替肉に比べると小さい。それは今の代替卵では鶏卵の代わりとしては不十分な部分が多いというのが理由かもしれません。
卵には料理の中で22の役割があり、その役割の多く再現できる代替卵がマーケットで有名になっていくでしょう。
もし、日本企業で代替卵を開発する場合は「生食」も再現する項目に入りそうです。
日本人は世界的にも珍しく卵を生で食べる習慣があります。
開発する日本企業とって代替卵のハードルが他の国より高いかもしれません。
「代替卵のたまごご飯」…もし、おいしく味が再現されているなら、代替卵の生食が世界的に広がるかもしれませんね。
参考
https://www.thrillist.com/news/nation/just-egg-vegan-eggs-review-ingredients
https://www.excite.co.jp/news/article/Karapaia_52283706/
https://www.greenqueen.com.hk/scramble-to-the-top-6-food-tech-pioneer-making-eggs-from-plants/
https://www.greenqueen.com.hk/les-merveilloeufs-female-led-french-startup-to-launch-100-vegan-egg/
https://haccola.jp/2019_06_09_8959/